小さく口づけを施した少女の眠たげな瞳には薄暗い一室が映り込んでいた。長い髪の魔法使いが意地悪げに微笑む。哀れなお嬢さん、薬草の苗床にしてやろう。眠りを知らない踊り子人形に変えても良い。いっそこのちっぽけなコウモリの羽をはやしたにせものの妖精にでも仕立ててしまおうか?
薄気味悪い囁きは、しかし秘密めいて花開き非日常の薫りを漂わせる。その力無く座り込んだ膝の上、白いレースの首輪を着けた子猫が不服そうに自らの尾を一瞥してそっとすべり降りた。「(可愛い顔して被飼願望ね・・・)」 お伽の国へご案内、と吐き捨てる声は可憐な鳴き声ではなかった。 (eatmy+少女)
柔らかな吐息が触れ、意識の奔流に飲み込まれる。自分を取り巻いているのはどうやら硬質の冷気の様だった。視界に広がる滑らかな光、それを挟んでこちらを覗き込んでいるのは―― 「‥‥俺、か?」 きわめて珍しく、人の形をとって介入する視点。身なりの良い少年の姿をしている。
腰掛けたままの姿勢と、それを覗き込む霞がかった誰かの影。長い、陶酔にも似た共有感覚は少女独特の温度に乏しいように思えた。 「‥‥‥‥さっき送った子、居ただろ」 馬鹿馬鹿しい仮定だ。それでも、あの光景に意味を見出だそうと心がざわつく。 「あれ、よく調べておいてよ」 (宝石人形+eatmy)
・・・変な子だとは思っていた。つい先程交わした筈の景色がもう朧気に薄れている。何も聞こえないどこかで、向かいに座る誰かを見ていた感覚だけ。視線を彷徨わせ、膝に重ねた自分の手、それから相手の胸元の、黒い襟ばかり交互に視界に浮かべていた。取り落としたナイフの銀に、ふと目眩を覚える。 (eatmy+嗤殺猫市)
「・・・"la petite mort "のリストを」電話を置いた店主は無言で厚い冊子を捲る。名前の横に添えられた写真には、羽根や毛皮を纏う小動物のような姿が映し出されている。無表情だか穏やかな微笑みを浮かべているようにも見える、その少女は間違いなく巴が送り出した人形だった。 (巴 共闘企画より)
空間を境目無く埋め尽くす色彩の渦から逃げ付いた先は、闇の底のような静まりかえったフロアだった。磨き上げられた扉も暗さの為か景色を映さない・・・否、この一体が穴ぐらの行き止まりではなく未だ入り口、夢の世界へのきざはしであることを、恐らくは渡り廊下の最端に佇む白い人影が伝えていた。 (eatmy+上層階スタッフ)
本から本まではしけをかけた本の山を並べて詰んだ。革のソファは読みつぶした聖書のペェジを丸めて磨くのがいんちきだけど綺麗になる方法だ。ランプの球へ湖を詰めよう。床がまた白になったから花弁を踏んでオイルをかける。「お誕生日でない人の名札がないな」あとは女王様が開けてくれればしまいだ。 (トランプⅤ独白)
少女の言葉は閃星灯の下で空気砲のように何度も弾け、その度に錫螢が慌てて傘のなかへ逃げ込む。炭酸水のグラスには触れず、懐紙に盛られた色硝子のような破片をそのまま飲み込んだ。「"土星の輪"を無闇に食べてはだめですよ」吐き出した溜息は、既に声ではなく小さな光を含んだ煙りに変わっていた。 (?+少女)
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