口元のクリームを、躊躇いなく舐め取られた時から猫市の思考は固まっていた。ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、触手の一本が牽制と顔を覗かせるのをこれも丁寧に吸い付ける。じわじわと這い上る困惑を知ってか知らずか‥その影は、これから起こるであろう事を予測して満足気に引き下がってしまった。あああ、正直者の、薄情者め。
潤滑がやけに生々しく聴こえて、たまらず固く脚を閉じる。「‥‥失礼します」前髪を払われ、なだめるようなキスを目頭に受け、言い訳が溶けていく。。多分、これが彼女なりの精一杯の良心なのだろうというのが伝わってきて、変な寂しさの当てつけに空いていた方の小指へ噛み跡をお返してやった。
机の上へ仰向けに、脚を抱え上げて寝かされた。右足は相手の肩の上、左は割り開かれて―「増長ちゃ、まって あしやっ」「軽いから大丈夫すよ。つか、ちゃんと飯食ってます?」飄々と言ってのける表情はもう普段通り。それがぱさりと髪の奥へ消えて、「ん、ぅっ!」じゅ、と暖かい水音が広がった。反射的に頭へ手をかけて、ああ駄目だ、こんな、の、
:
中へ押し当てられた指はそのままに、身体を起こされたため一層奥まで沈み込んだように感じて息が詰まる。「ね、も ぅいいよね、っあ」「すいません。ちょっと、荒っぽくなると思います」自らの手の甲に膝を当て、もう片腕で肩を抱いて何度も熱を擦り上げる。倒れ込む身体は、同じだけ熱かった。まるで、異性同士の、それのように。
「ああ、厭、アフターケアっつか、お詫びっつうか」内股、それからその下へ、猫のように舌を這わせる。「しなくてぇ、いっ にゃ‥‥」油断していたのと、隅々まで見られる羞恥心とで先程よりだらしない声が漏れる。柔らかな感触に、眩暈のような動悸が引きずり出されていく。
「んー、その、何で私なのかなっていうか、どうしてもならせめて保健室の方が‥」今一混乱から覚めていないのか、衣服を整えた先輩は照れたように言葉を並べる。「はい。以後気をつけます」「ふぇ、またやるの?」「どうでしょう。ああ、何故と聞かれましたね」―――可愛いからですよ。嘘は、言ってない。誰にも、嘘はついていない。(増長+猫市)
+++
手の平に割り落としたクッキーをさくさくと食べる姿は、外見の通り無害な子猫以外の何者でもない。その油断が判断を鈍らせ、"彼"が突如人の形を取っても、そのまま上着に手をかけ渇望するかのように詰め寄っても――腰に回された手がいつの間にかひとの姿を放棄していても、明確な抵抗の意志を遠ざけたのだろう。
仰向けに倒され、片腕の筈なのに腰から頭までを支えられた構図ですら、少女は普段の表情を崩さなかった。その気概が、甘い香りを纏った刃への渇望を後押ししたのだろう。そんなにお腹が空いてたんですか?と平然たる様子で触手へ体を預けたままポケットを漁る相手に、承認を断定して小さく頷くと異形の影はその頬へ手をかけた。
彼女に接触する触手は二本。腕を絡め、壁に押し付ける物と下腹部へ伸びる細いそれだ。「先輩‥これちょっと洒落になら、ぅく」埋め込まれた先が律動と共に侵入してくのが見える。「影ちゃんがねぇ、私だけ気持ち良いんじゃ勿体ないって言うからさ」わかるよね。詰めた息の向こう側にも隠せない、瞳のなかの面影が、揺らいだ。(猫市+増長 捕蝕ネタIF)
PR