子供の浅知恵だ。無力な者が分不相応の道具を持て余して泣いている。奇襲の可能性を考慮してか、流石に一階の持ち教室を選ぶ愚策には走らなかったものの所詮は同じ事。会議室の隅、扉からの攻撃を裂けてひ弱な少女三人が固まる様は滑稽甚だしい。催眠の能力を操る者、獣の遺伝子をインプラントされた者。そして、オモチャのような飛び道具を扱う者。
空間一杯に散らばったそれは、脅威などとは言い難い。粒子を凝縮し、光の反射で掌程の丸い盤を投影した下らぬハッタリ。この狭い部屋では到底炸裂機能を起動するだけの猶予も持たず、ただ弱い脈拍じみた消耗の点滅を繰り返す半不可視のエネルギー体。見立ての通り、待機のサインは消えない。発動させるまで解除が出来ない事は、ささいな犠牲を払って確認済みだ。
「心中するだけの義理は無いようだな」あの卑劣な対人地雷‥‥‥自動追尾式のスタンドというふざけた代物で辛酸を舐めた歩兵の群れが、苦蔑を晴らすべく殺到する。件の盤は透過した。間合いの暴発が自信を牽制し首を絞め、最早無意味、無意味となった。「虚構の壁に埋もれて死ね」「知って、たんですか」オモチャの技師が呻く。ただのホログラムと貸した明滅が、また力無く薄れた。「それ、は」
「悪いなー、嘘なんだ」一閃、鳴らした指を待ち構えていたように、少女を取り巻く盤がくるりと裏返って丸に斜線を引いた表示に変わり夥しい炸裂を、考えられないことに、ただの投影でしかない筈のそれが物理障壁となって防ぐ。濛々たる爆発に飛び込んだ兵の被害は伺えない。弾丸のような素早さで、子猫の少女が紅白の盤に護られながら反対側の扉へ走る。
難なく起動した内部シャッターの奥から、呑気な声が響いた。「下っ手クソな演技をした甲斐があったっすよ。見えてないだけで、大量に待機させてましたし。感知出来なかったでしょう?別に、これ発動制限とか無いんです。残弾とか、条件とか」前後を阻まれた矮小な空間を、先刻の数倍の盤が埋め尽くした。今やはっきりと敵意を持った有効兵器。「そういうの無いんで」鞭のような音が、突き刺さった。(増長+夜臼+外部者 部隊交戦ネタIF)
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瓦礫に沈んで、私を護る貴重な道具の殆どは埋もれてしまった。じっとりと重い上着は、引きずり出すには不慣れ過ぎて雑草のように邪魔を続け、のろまな私にあの声を追い付かせる。―――夜臼、さん。 まだ解けば使えそうなワイヤーを、何度もハンカチで摘んで抜き取る度に、まるで体の中身を取られるような声を出すのだから。
共震するように痛いいたい奥の底まで伸ばした手へ、なぜだか押し付けられるように渡されたものがあって、その意味が逃げ出す限界だった。―――凄いな、すっかり、逞しくなってしまって‥‥‥夜臼、さん? 私の世界を守ってくれるものが、どんどん判らなくなって、そうしててのひらに収まるほど、小さく冷たくなってしまった。(夜臼+増長 戦闘ゲームネタIF 増長脱落END)
「だからさ、もう良いんです」ひゃっ、ひゃっと死んだ犬のような笑いが目茶苦茶に反響する。その弾に撃たれるように、肩を震わせて勝者は僅かな恐怖に堪えていた。もう隠す事も何も無い開放感と、帰還の望みを断たれた安堵とが卑下た欲求を切り崩す。「ほら結局鬼とプレイヤーが一緒に居られる訳が無かったんですよぉ」まさか主催者様だとは気付きもしませんでしたけど。(増長+夜臼 人狼系ゲームネタIF 増長脱落END)
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襟首をつまみ上げた目の前の者が発する薬品の匂いに、体中が危険信号を訴える。「‥‥私の授業をサボりですか?教室までお連れしますからきっちり50分間、っと」 吊り下げられた体制を逆手にとり、振り子のように脚を後ろへ振り上げる。咄嗟に放した手をおまけに尻尾で叩いてから、私は逃げ出した。あの子、こんな所でちゃんとやって行けてるのかしら?(猫臼+皇 入れ替わりネタIF)
「御無礼を失礼致しました、プリンセス。つかぬ事を伺いますが、お生まれはどちらの世界で」「‥‥‥子猫さんを連れ戻しに行くのね。不思議、まるであの子がお姫様みたい」それはもう、この世にお姫様でない女の子なんか居ませんよ。静かに一礼した女は、不遜に眼を細めて呟く。但し自分はヒーロー志望ですがと付け足して、増長は再び意志を持って傅いた。(猫臼+増長 入れ替わり発覚ネタIF)
《無用心ですね。こんな与太者の出入りを許してしまうなんて》 少し篭ったような、それでいて耳に馴染みのある声が静かに響いた。遥か伸びた塔の窓辺へ、何の不思議も無く一匹の猫が伏せていた。耳から尾の先まで黒く、瞳も塗り潰したよう。その身へ奇妙な白い霞が纏い付き、かき消えた後には―――同じ眼をした、から笑ういきものだった。(夜臼+猫長 入れ替わり救出ネタIF)
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