壁に背をつけ、不規則な息を漏らすeatmyを抱き起こす。「さる組織の落し種だったらしい。薬入りの菓子で、自分も相手も暗闇の中へ飛ばすのが常套手段だそうだ」もうこちらへ転げ落ちてしまったけど。今頃は、自らも知らない穴の底で怯えているさ。付け加えて、無意識なのか袖口を掴む白い手を握ってやる。苦しげな呻きが、少し掠れていた。(?+eatmy スパイ人形ネタ)
「もし白兎が、お茶会なんて放り出して魔法のお菓子を平らげてたらどうなったんだろうね」「‥‥何だって?」 クッションに凭れて寝息をたてる少女の瞳には、夢に没我する恍惚が見て取れた。(埃くさい童話の幻視だったのか。脅かすなよ)安堵の息をつかせぬ不穏が蟠る。もう一度振り向いて、もしこの人形が居なかったら。(eatmy+人形 イレギュラーネタ)
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早回しの無声映画は、視界が反転した所でフィルムを止めた。色彩の波に塗れた悪趣味な静止画面に、夢魔が悦楽を抱き抱えて割り込む。「んー、やっぱリ男の子は堅いネ。色々」化け物に飛び起きて無く子供へするように、頭を乱暴に撫でられた事すら視界を歪ませる。飾り立てられた自分自身が、まだ舞台装置の隅に置き去りにされていた。(時計兎+eatmy)
この酷く不安定な高さへ追いやられてから、時計の針の幾度か。適当に切られた黒髪が、相も変わらず目の前で揺れている。窮屈なブーツを抑える掌と体を預けた首筋とが、普段触れられる場所以外からの熱を伝えるものだから、益々不名誉な扱いを受けてたまるかと覚えず漏らした呟きと、纏めて瞼を擦った。夢見の悪さに懐かしむ場所なんて、無い、し‥‥‥(チェシャ猫大+eatmy)
――結われたリボンを整える巴の手に、確かに尾の先端が当たった。意識外から齎された接触による反射的な筋組織の収縮ではなく、さも非礼を責めて払い退ける様に振るわれた物であると言う事は、その付け根の部分から目をひいて乱れるドレスの裾を見れば明らかだ。それはレースの一片よりも脆い最後の理性。少女の"拒絶"は氷の針のように、指先を貫いた。(巴+夜臼人形)
「諸手の行軍は傍聴席を求むかけ脚の反語、このまま鏡の裏側まで御案内致します。赤い花も咲かない穴ぐらの底、為れどアリスは鍵師でも案山子でもない。扉の数字の秘密を誂えたのは貴女です。さあお立ち合い、錆びた時計の針を起こしに行きますよ」きらきらした瞳は最初から私を見ていない。たすけて、と言いたい心のなかに、花びらのような柔らかい指が跨がっていた。(猶+夜臼)
「‥‥野うさぎみたいになってしまって。今の君は荊に飛び込んだだけで壊れそう」触れた髪からは、遺言のように芳香が一筋流れ出す。眠りの庭へ落ちた彼の仕事は、今や甘い庇護を賜るだけだ。人形師のみる夢に水銀の雫を落とせば、その手へ紡ぎ糸が声を織り接いで再び孤独を注ぐ。ただ、足跡が道へ思い及ぶ事を、願った。(巴+時計兎 人形孵りネタ)
「‥‥‥で、件の娘には感付かれたのかな」「何とも言えませんですね」華奢な車椅子は車輪の油が切れたのか、巻き上げ機のような音をひいて止まる。黒い膝かけとヴェールの下では、手折られた人形が静かな寝息をたてていた。その意味を理解しているのかどうか、不躾にもデキャンタボトルへ溜まる赤黒い液体をそのまま口へ含んで、猶は小首を傾げた。
「それでは、御身の餞を務めさせて戴きます」芝居掛かった口調で猶が傅く。細い息を漏らして身を預ける少女の髪から冬の花の細工品を外して、巴が告げる。「この子は、眼を必要とし過ぎた。あらゆる人の向ける眼、くまなく与えられる眼を」七欲の人形なんて売れないもの。女王の瞳は、傲慢へ落ちた天使のそれよりも冷たかった。
その言葉を聴くとも無しに、猶は左手の指先を肩口へ添える。硬く、透明度の高い爪を染める最初の数滴には触れずに拭いとり、浮き上がった赤へ初めてその劣欲を突き立てた。僅か許された痕以外を抉らぬよう、弔いの装いを汚さぬよう、そしてその僅か残る肌の温みに手を引かれ、名札の無い死者の卓へ誘われぬように。(猶+巴 人形始末ネタ)
かん、こん、かん、こん、鐘が鳴る。狸寝入りで猫になれ、嘘つき嫌いのクロケット。嗚呼、林檎色したエナメール、エプロンドレスの人で無し。君じゃない、君じゃない。忘れた眼をして待っている、扉が開くのを待っている。だけど君には通れない。眠る子の絵画は虚像の鏡。頁の向こうに悦は無し、ただ。君の、墜ちる、墓穴 が。(猶独白(→店員アリス))
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