「へぷ」額の辺りにぽすんと柔らかい衝撃を受け、手を離した途端子猫は腕の中から逃げ出した。「暑いのやぁだ」午後の熱気に気怠く耳を伏せ、夜臼はぷいとむくれて普段通りの接触を拒否する。「(‥‥‥尻尾ビンタ、そういうものもあるのか)」夏の日差しにも顔色一つ変えず、所在無さ気に伸ばされた両手の空白を持て余して、増長は密かに思案していた。(増長+夜臼)
赤い革のベルトには、丁寧に縁取りが付けられている。留め具は黒、飾りは子猫のシルエットで刻印が入ったプレートだ。鏡を向けてやれば、得意げな表情。釣られて、少女も少し笑う。「夜臼さんはロリータ系だと思ってましたが、パンクスタイルも似合いますね」また作ってきます、着けてくれるのなら幾らでも。声音は、穏やかだった。
この学園は、一に放任二に自主性。三四は個性で五に元気‥‥がモットーかはさておき、どこを切っても無遠慮に自由な雰囲気が特徴だった。無論、服装や持ち物に口を出されることはさほど無く、一人の生徒がアクセサリーを着用して登校したところで何を咎める者も居ない。が、その異様な光景は確かに確認されていた。
細い黒のチョーカーは、革製の張りに余裕をもって取られた長さや、首後ろにひっそりと取り付けられた接続用金具が絶妙の違和感を醸し出している。ただ一人、上機嫌で教室に飛び込んだ少女を出迎えたとある生徒は、注意を払ってそのアクセサリーに手をかけると満足げに微笑んで、「本当に付けてきてくれたんですね」と囁いた。(増長+夜臼 首輪ネタ)
蒼と銀色の包装紙はいかにも冷たい印象を与える。適当に破られたそれから取り出される真っ白なドロップは、しかしミルクの甘さを備えてはいなかった。表情すら変えずに無言でそれを‥固い飴玉を咀嚼し続ける増長に、取り替えしようの無いダメージを察しつつ、彼女は密かにあの子の到着が遅れれば良いのにと呟いた。(女子生徒独白+増長(+夜臼 喉飴ネタ)
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