扉の外は、黄昏時の空だった。透けた手の平の向こうに暮れる陽を垣間見ながら、動けなかった男のことを考える。『あれ』は、流れるままに存在を換えていく事よりも幸福だろうか?あるいは、自分自身もあのなかに"可視の音"とでも銘打たれて留まり続ければ、消え失せる恐怖からは解放されるだろうか?
(‥‥‥考えるだけで頭痛くなってくるな) フード越しに髪を掻き上げれば、疾る夜風に煽られて身体が風を受ける。物理法則の通用しないこの状態が、見た目の通り全くの自由であるのかふと思案して結局は止めた。それは、あの店の主人が既に答えを出していそうだから、というささいな負け惜しみからだった。 (ロイエ独白(+白猫))
悪意の対流したような空気の中に、一筋甘い香が漂う。足下へどうにか届く街頭の明かりに、子猫の尾が揺れる幻覚を見た。「(・・・・・子供はこわいからねぇ)」 お互いの領分へさえ入り込まなければ無視が性分。自分も随分甘くなったが、あの仔を誘い出すのはさて何だろうかと、考える位なら良いだろう?
氷を突き立てられたような悪寒は今更珍しいものではない。お得意の逃亡劇に、少々のスリルが混じるだけ。ただ、彼女の抱く冷たい愛はやがて、自分の持つどす黒く上澄みの泡のように軽薄な熱とこの小さな手が凍り付いても握り締め続ける執着によって薄く頼りなく、鋭い刃のかたちへ変わっていくだろう。 (グォイ独白(+嗤市))
硝子の天窓を設えた図書館の一角が、ふと蒼い陰に満たされた。水底に注ぐ陽光を背に受けて、白い鱗の乱反射だけが時折書物の背表紙に跳ねて砕ける。異形の魚は、はるか下方にちらと見えた青髪の王に向かって暢気に手を振ると海流の果てへ夢のようにに消え去り、後にはマリンスノーに混ざって銀の粒子だけが降り注いでいた。 (アノーマリー+オルカ)
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