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□    SSS16
「‥‥痛て」 跳ねた髪は、乱暴に指を通した程度では戻らない。図書室の木の床は、喧騒も衝撃も吸い込んで静まり返る。粗野なヒーローは情緒もなく奪還を決行し、取り残された増長はヘラヘラと笑って一人寝返りを打った。突き倒された体勢は、降参と称賛のハンズアップ。「どーでも良いのに、燃えてきた‥‥‥‥っすね」持ち札は少ない。逃げの一手で、あの殺意の眼をかい潜ろう。(増長+騎士+猫市)

「飄々としてる振りは楽しい?無理した客観視にしがみついてさ」ひゅん、と飛んだ矢印を正眼で二本の指がつかみ取る。言葉の通り座標軸までも否定して、躊躇無く口に含むと何の不思議もなく飲み込んだ。すっかり取り込んでしまってから、増長は薄く笑って返答した。「ええ、ですから小生修行中です故」「ほんと、もうじき溜め込んでおかしくなるわよ、それ」(増長+津々)

挑戦的な口調に思案する。昼食代わりの菓子は、これが最後の一本。先端を食むそれを、要求通り差し出した。机に手を掛けて身を寄せ、躊躇無く端を口にするや否や、拒むようにふいと首を振ればあっけなくビスケットは非対称に折れた。「先に折りましたね」「取り分はこっちの勝ちっすよ」はいご馳走様と理科室を後にする生徒の意図は、やはり読めない。(増長+皇  VDネタ)

親しげに腰の辺りへ回された腕は、雛鳥のように柔らかくか細い。血の澱る匂いにゆっくりと砂糖菓子の粒が螺旋に絡まって、陽光のなかへ立ち昇るような甘ったるさが薫った。寄る辺無いこの箱庭のなかに、数刻前までお腹が空いていたという点できっと彼女と自分は繋がっている。(哀川独白(+夜臼)
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□    SSS15
「へぷ」額の辺りにぽすんと柔らかい衝撃を受け、手を離した途端子猫は腕の中から逃げ出した。「暑いのやぁだ」午後の熱気に気怠く耳を伏せ、夜臼はぷいとむくれて普段通りの接触を拒否する。「(‥‥‥尻尾ビンタ、そういうものもあるのか)」夏の日差しにも顔色一つ変えず、所在無さ気に伸ばされた両手の空白を持て余して、増長は密かに思案していた。(増長+夜臼)

赤い革のベルトには、丁寧に縁取りが付けられている。留め具は黒、飾りは子猫のシルエットで刻印が入ったプレートだ。鏡を向けてやれば、得意げな表情。釣られて、少女も少し笑う。「夜臼さんはロリータ系だと思ってましたが、パンクスタイルも似合いますね」また作ってきます、着けてくれるのなら幾らでも。声音は、穏やかだった。

この学園は、一に放任二に自主性。三四は個性で五に元気‥‥がモットーかはさておき、どこを切っても無遠慮に自由な雰囲気が特徴だった。無論、服装や持ち物に口を出されることはさほど無く、一人の生徒がアクセサリーを着用して登校したところで何を咎める者も居ない。が、その異様な光景は確かに確認されていた。

細い黒のチョーカーは、革製の張りに余裕をもって取られた長さや、首後ろにひっそりと取り付けられた接続用金具が絶妙の違和感を醸し出している。ただ一人、上機嫌で教室に飛び込んだ少女を出迎えたとある生徒は、注意を払ってそのアクセサリーに手をかけると満足げに微笑んで、「本当に付けてきてくれたんですね」と囁いた。(増長+夜臼 首輪ネタ)

蒼と銀色の包装紙はいかにも冷たい印象を与える。適当に破られたそれから取り出される真っ白なドロップは、しかしミルクの甘さを備えてはいなかった。表情すら変えずに無言でそれを‥固い飴玉を咀嚼し続ける増長に、取り替えしようの無いダメージを察しつつ、彼女は密かにあの子の到着が遅れれば良いのにと呟いた。(女子生徒独白+増長(+夜臼  喉飴ネタ)
□    SSS14
記憶が死んで転がっている。抽象的な情景が重なって、一時その者を覆い隠した。逆行に意識を引き戻されれば、場違いに腰掛けた増長は同じ様に夢の終わりを哭いているのが見える。涙もなく。「‥‥‥この獣の仔が夜臼さんだそうです。迂闊だった。今だに実験を受けていたとは」人から剥離したものが二つ、時を隔てて、それでも未だ交わる事は無い。(増長+夜臼  獣化実験ネタIF)

「‥‥‥‥‥もう少し理性的だと思っていましたよ」不快さの滲む男の声は、さんざ想定した物とは違い呆気ない程人間的であった。もとより、もう嘲笑や侮蔑の類を吸収する隙間は用意出来ない。ここに有るのはあと一つ。(自分も、それ以外も、均しく凡人だ)現象の波に分断されたセル状の世界が眼底を冷やしていく。その奥へ、指先から這い昇る熱が到達しつつある。白い腐肉を刻む音のなかで、己の指だけが赤かった。(増長+皇(+夜臼) 夜臼脱落END カニバIF)

「どうです、信念のかけらも無い眼でしょう」 言葉の通り、分厚いレンズの奥には埃と本の背表紙との積層を思わせる淀みがあった。「こんな面白くない物が顔に嵌まっている。それよりねえ、貴方こそ」―いい物をお持ちなのに、お忘れで居らっしゃる。ああまだ手付かずなのですか、と合わせ鏡の黒に一切の意識を塗り込めて、ただ色無き瞳の困惑が刻み込まれていた。(増長+鏡藍)

手首に近い腕に、圧力が沈む。犬のように首を引いて感触を確かめ、麻痺した皮膚には体温を固めた舌が跡を探して滑る。「‥‥‥痛くなかったでしょう。皮下組織は、意外と刺激に堪えるものです」触れた指先は、薄くなった印を隠している。「ほんとうだね、びっくりした」「‥‥はい」穏やかな言葉の中で、この唐突な行為の理由だけは、語られなかった。(増長+夜臼)

「‥‥‥好きですよ。君が好きです。でも、君について知らない事があるうちは、君を好きだと言えない。君みたいになりたい。博愛精神のかけらも無いけど、頑張ってみる。でも、君がどんな風に出来ているか、知らな過ぎる、君になりたいから、手伝ってほしい」たどたどしい言葉に、あまりにも遠すぎるものを感じた。もう限界なのだ。わたしたちが立っている場所は。(増長+夜臼 増長男体化ネタIF ヤンデレ派生:同調型)

「駄目なんだ。ずっと、静かにいたのに、自分と誰かが関わって、幸せな事じゃないって知ってる、俺は、ごめんなさい、貴方を大切に出来ない。呪われようが、憎まれようが、気持ちは諦めた。ただ、俺に貴方の全てが向けられる事しか望めない」目茶苦茶な想いの塊が、私を避けてぶつけられる。恐らくは、その破片で私が埋もれるまで、ずっと。(増長+夜臼 増長男体化ネタIF ヤンデレ派生:狂乱型)

「僕はね、とんだクズなんです。夜臼さんが目を向けるものなら、人でも物でも消えてなくなるべきで、夜臼さんが気にかけた事、現象でも概念でも葬り去りたい。そしてこんな、人間の腐ったような奴に、愛されて目茶苦茶に破滅していく夜臼さんなら、もっといいと思うんです」うそだ。見えてるのは、泣いて責める私の姿だけ。それをどこかで望んでいる私はいま消えて、そうして"可哀相な私"の演者に選ばれた。(増長+夜臼 増長男体化ネタIF ヤンデレ派生:破滅型)

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物騒なのを集めました。
□    SSS13
口元のクリームを、躊躇いなく舐め取られた時から猫市の思考は固まっていた。ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか、触手の一本が牽制と顔を覗かせるのをこれも丁寧に吸い付ける。じわじわと這い上る困惑を知ってか知らずか‥その影は、これから起こるであろう事を予測して満足気に引き下がってしまった。あああ、正直者の、薄情者め。

潤滑がやけに生々しく聴こえて、たまらず固く脚を閉じる。「‥‥失礼します」前髪を払われ、なだめるようなキスを目頭に受け、言い訳が溶けていく。。多分、これが彼女なりの精一杯の良心なのだろうというのが伝わってきて、変な寂しさの当てつけに空いていた方の小指へ噛み跡をお返してやった。

机の上へ仰向けに、脚を抱え上げて寝かされた。右足は相手の肩の上、左は割り開かれて―「増長ちゃ、まって あしやっ」「軽いから大丈夫すよ。つか、ちゃんと飯食ってます?」飄々と言ってのける表情はもう普段通り。それがぱさりと髪の奥へ消えて、「ん、ぅっ!」じゅ、と暖かい水音が広がった。反射的に頭へ手をかけて、ああ駄目だ、こんな、の、
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中へ押し当てられた指はそのままに、身体を起こされたため一層奥まで沈み込んだように感じて息が詰まる。「ね、も ぅいいよね、っあ」「すいません。ちょっと、荒っぽくなると思います」自らの手の甲に膝を当て、もう片腕で肩を抱いて何度も熱を擦り上げる。倒れ込む身体は、同じだけ熱かった。まるで、異性同士の、それのように。

「ああ、厭、アフターケアっつか、お詫びっつうか」内股、それからその下へ、猫のように舌を這わせる。「しなくてぇ、いっ にゃ‥‥」油断していたのと、隅々まで見られる羞恥心とで先程よりだらしない声が漏れる。柔らかな感触に、眩暈のような動悸が引きずり出されていく。

「んー、その、何で私なのかなっていうか、どうしてもならせめて保健室の方が‥」今一混乱から覚めていないのか、衣服を整えた先輩は照れたように言葉を並べる。「はい。以後気をつけます」「ふぇ、またやるの?」「どうでしょう。ああ、何故と聞かれましたね」―――可愛いからですよ。嘘は、言ってない。誰にも、嘘はついていない。(増長+猫市)

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手の平に割り落としたクッキーをさくさくと食べる姿は、外見の通り無害な子猫以外の何者でもない。その油断が判断を鈍らせ、"彼"が突如人の形を取っても、そのまま上着に手をかけ渇望するかのように詰め寄っても――腰に回された手がいつの間にかひとの姿を放棄していても、明確な抵抗の意志を遠ざけたのだろう。

仰向けに倒され、片腕の筈なのに腰から頭までを支えられた構図ですら、少女は普段の表情を崩さなかった。その気概が、甘い香りを纏った刃への渇望を後押ししたのだろう。そんなにお腹が空いてたんですか?と平然たる様子で触手へ体を預けたままポケットを漁る相手に、承認を断定して小さく頷くと異形の影はその頬へ手をかけた。

彼女に接触する触手は二本。腕を絡め、壁に押し付ける物と下腹部へ伸びる細いそれだ。「先輩‥これちょっと洒落になら、ぅく」埋め込まれた先が律動と共に侵入してくのが見える。「影ちゃんがねぇ、私だけ気持ち良いんじゃ勿体ないって言うからさ」わかるよね。詰めた息の向こう側にも隠せない、瞳のなかの面影が、揺らいだ。(猫市+増長  捕蝕ネタIF)

□    SSS12
子供の浅知恵だ。無力な者が分不相応の道具を持て余して泣いている。奇襲の可能性を考慮してか、流石に一階の持ち教室を選ぶ愚策には走らなかったものの所詮は同じ事。会議室の隅、扉からの攻撃を裂けてひ弱な少女三人が固まる様は滑稽甚だしい。催眠の能力を操る者、獣の遺伝子をインプラントされた者。そして、オモチャのような飛び道具を扱う者。

空間一杯に散らばったそれは、脅威などとは言い難い。粒子を凝縮し、光の反射で掌程の丸い盤を投影した下らぬハッタリ。この狭い部屋では到底炸裂機能を起動するだけの猶予も持たず、ただ弱い脈拍じみた消耗の点滅を繰り返す半不可視のエネルギー体。見立ての通り、待機のサインは消えない。発動させるまで解除が出来ない事は、ささいな犠牲を払って確認済みだ。

「心中するだけの義理は無いようだな」あの卑劣な対人地雷‥‥‥自動追尾式のスタンドというふざけた代物で辛酸を舐めた歩兵の群れが、苦蔑を晴らすべく殺到する。件の盤は透過した。間合いの暴発が自信を牽制し首を絞め、最早無意味、無意味となった。「虚構の壁に埋もれて死ね」「知って、たんですか」オモチャの技師が呻く。ただのホログラムと貸した明滅が、また力無く薄れた。「それ、は」

「悪いなー、嘘なんだ」一閃、鳴らした指を待ち構えていたように、少女を取り巻く盤がくるりと裏返って丸に斜線を引いた表示に変わり夥しい炸裂を、考えられないことに、ただの投影でしかない筈のそれが物理障壁となって防ぐ。濛々たる爆発に飛び込んだ兵の被害は伺えない。弾丸のような素早さで、子猫の少女が紅白の盤に護られながら反対側の扉へ走る。

難なく起動した内部シャッターの奥から、呑気な声が響いた。「下っ手クソな演技をした甲斐があったっすよ。見えてないだけで、大量に待機させてましたし。感知出来なかったでしょう?別に、これ発動制限とか無いんです。残弾とか、条件とか」前後を阻まれた矮小な空間を、先刻の数倍の盤が埋め尽くした。今やはっきりと敵意を持った有効兵器。「そういうの無いんで」鞭のような音が、突き刺さった。(増長+夜臼+外部者  部隊交戦ネタIF)

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瓦礫に沈んで、私を護る貴重な道具の殆どは埋もれてしまった。じっとりと重い上着は、引きずり出すには不慣れ過ぎて雑草のように邪魔を続け、のろまな私にあの声を追い付かせる。―――夜臼、さん。 まだ解けば使えそうなワイヤーを、何度もハンカチで摘んで抜き取る度に、まるで体の中身を取られるような声を出すのだから。

共震するように痛いいたい奥の底まで伸ばした手へ、なぜだか押し付けられるように渡されたものがあって、その意味が逃げ出す限界だった。―――凄いな、すっかり、逞しくなってしまって‥‥‥夜臼、さん?  私の世界を守ってくれるものが、どんどん判らなくなって、そうしててのひらに収まるほど、小さく冷たくなってしまった。(夜臼+増長 戦闘ゲームネタIF 増長脱落END)

「だからさ、もう良いんです」ひゃっ、ひゃっと死んだ犬のような笑いが目茶苦茶に反響する。その弾に撃たれるように、肩を震わせて勝者は僅かな恐怖に堪えていた。もう隠す事も何も無い開放感と、帰還の望みを断たれた安堵とが卑下た欲求を切り崩す。「ほら結局鬼とプレイヤーが一緒に居られる訳が無かったんですよぉ」まさか主催者様だとは気付きもしませんでしたけど。(増長+夜臼 人狼系ゲームネタIF 増長脱落END)

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襟首をつまみ上げた目の前の者が発する薬品の匂いに、体中が危険信号を訴える。「‥‥私の授業をサボりですか?教室までお連れしますからきっちり50分間、っと」 吊り下げられた体制を逆手にとり、振り子のように脚を後ろへ振り上げる。咄嗟に放した手をおまけに尻尾で叩いてから、私は逃げ出した。あの子、こんな所でちゃんとやって行けてるのかしら?(猫臼+皇 入れ替わりネタIF)

「御無礼を失礼致しました、プリンセス。つかぬ事を伺いますが、お生まれはどちらの世界で」「‥‥‥子猫さんを連れ戻しに行くのね。不思議、まるであの子がお姫様みたい」それはもう、この世にお姫様でない女の子なんか居ませんよ。静かに一礼した女は、不遜に眼を細めて呟く。但し自分はヒーロー志望ですがと付け足して、増長は再び意志を持って傅いた。(猫臼+増長 入れ替わり発覚ネタIF)

《無用心ですね。こんな与太者の出入りを許してしまうなんて》 少し篭ったような、それでいて耳に馴染みのある声が静かに響いた。遥か伸びた塔の窓辺へ、何の不思議も無く一匹の猫が伏せていた。耳から尾の先まで黒く、瞳も塗り潰したよう。その身へ奇妙な白い霞が纏い付き、かき消えた後には―――同じ眼をした、から笑ういきものだった。(夜臼+猫長  入れ替わり救出ネタIF)
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