転がり込んできた彼女の様相と言えば、左の瞼を通って滴る夥しい血糊がまず目に付いた。「額を少し切っただけですから・・・お構い無く」「進んでここへ来るような人を構いやしませんよ」 壁に凭れた姿が膝を屈するように座り込む。「で、匿えと」「まあ、息が整うまで」「では、震えて息を乱している間はここに留まるという事ですね」 緩慢に振り向いた顔、赤く塗れた頬に指を重ねる。「あなた、袋のネズミですよ」 (皇+増長)
仮面のように冷えて乾き始めた朱を、融かすように舐め取っていく。伏せられた瞼をこじ開けるように舌先で触れれば拒否のつもりなのか白衣の胸を叩かれた。「興醒めですよ。全く、誰の真似ですか」「本当に、口の減らない・・・・・」 哭いてしまえと喉元に歯を立てると何が可笑しいのか低く嗤い出した。 (分岐A:皇+増長)
傷を触られたら面倒だという杞憂は、そのまま髪を掴んで引き倒された事で意識の外へ追いやられた。鞄も上着も避けてほぼ生身に近い腹部へ遠慮無く膝を押し立てられたが、漏れかけた声は短い息に変えて気付かれないように消す。「小生程度でも貴方の執着を享受できるんですねぇ。暇人」 遠隔用の暗器などではなく、生身の手に硬く握られたそれを受け止める為改めて深く息を吐ききった。 (分岐B:増長+皇)
「この題材が気になってるんです」「ストックホルム症候群!監禁モノを語るネタでは外せないねっ」 図書室の片隅、書物の頁を覗き込むのは白衣の生徒。「出来ればこれについての見解を伺いたいんですが」「うーん、自己防衛本能の一つだから、一概に悪いとも言えないしなぁ」「思い込みでの幸福感ってのは不健全だと思うね」 興味を示したのか、別の生徒が口を挟む。だがその討論も、当の本人の求めているものでは無いようだった。 (増長+猫市+鹿尾菜)
過度に踏み込まなければ、少なくとも常識、正常の範疇で留まれていたという希望は最早現状において何の意味も成さなくなっていた。感情論と生存率が共通項でないことも理解しているつもりではあるが、何より今はこんな事に頭を悩ませている馬鹿馬鹿しさに飽きつつある。 「(・・・・・どこへも行けない訳じゃない)」 そろそろ開き癖の付きそうな本を、結論の出ない思考と一緒に閉じた。 (↑の続き:増長+(?))
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エロもグロも書けないことに気付いた。PR
「小生は弁天能寺さんのお人柄を強くお勧めしているのですが、芳しくないですね。押しが足りないと見える」 机を三つ以上挟んでの小さな内緒話は、そう締め括られた。白銀の髪の少女は、返事の代わりに笑顔で右手を差し出す。掛けていた眼鏡をやむなしと受け渡し、増長もまた薄く微笑みを返した。 (増長+弁天能寺)
掌は、体温を測るはずの額の下に据えられた。指先よりも幾分感覚の鈍いそこに、硝子体の張りつめた抵抗感が触れる。うつつにもむずがるように、数度瞬きが繰り返されるが押さえつけられているため瞼が開くことはなく皮膚を僅かに擦って手の下で脈動する。「鏡藍さん」 眼鏡を取ってもらえますか。と、裸眼の少女が囁いた。 (鏡藍+増長)
「黄色いマントを頂きましょう」 ―――仕方ない、と小さな呻きを残して重苦しい気配が消える。扉を叩くのは、放課後の怪異ではなく見知った声音だった。黄色は赤や青と並ぶ混ぜて作ることの出来ない有彩色。つまり血塗れでも蒼白でもない通常の状態を表す。只のハッタリでしたが通用するもんですねぇとから笑う姿に、覚えず安堵の声を漏らした。(増長+赤間+?)
乾いた音を立てて叩かれた手の甲を返して皇が酷薄な笑みを浮かべる。「まあ、そうなりますよね」「人の首を絞めかけておいて言う事がそれですか」「いえね、同じ事をしたんです。ある人に」「・・・」 「振り払うどころか、真っ直ぐこちらに腕を伸ばしてきたんですよ。私の、ここにね」 指し示したのは襟に隠れた首筋。怖い怖い、と呟くその横顔が、ふと歪んだように見えた。(皇+(増長)+花乃)
「菓子で釣れるかもしれないっすね」 出会い頭に脚払いからの馬乗りというご挨拶を受けつつ、小生の境遇を羨んですらいるという彼女の怒濤のような心境の吐露にまずは一般論を提示した。感情や欲求が先行してしまいがちな素直さは、物理で叩けば大体何とかなるという期待を嫌でも持たせられる。どうせ始終脳を酷使しているのだ。栄養過多になるくらい甘ったるいものをくれてやったらいいですよと、駄目押しに付け足した。 (増長+伊江藤)
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幅広い交流をとろうSSS第三弾。
「夜臼さん」 わたしの少しだけ苦手なこと。頭をなでたり、お菓子をくれたり、いつも話を聞いてくれるその人が、こうして名前を呼ぶとき。みんな同じように、とても丁寧に話しかける。いつもどおりの静かでやさしい声が、なぜだかプラスチックみたいに聞こえてしまう、そんなとき。 (夜臼+増長)
「悪役になりたいんですか」「穿ち過ぎですよ」「小生はまともに卒業したいだけなんですがね」「こんな世界で何を遠慮する事があるんです」「生来貧乏性なもので」「勿体無い」「あと、メタ発言キャラは死なないというジンクスが」「そう上手く行くと思っていますか」「こんな世界ではそれくらいしか信じられませんから」 (増長+皇)
両の手に三箇所。巻かれた絆創膏が躊躇なく剥がされていく。糊のきいたテープに引っ張られた皮膚から血が滲んでも増長は睫一本動かさない。「傷口を塞ぐのは良くないですよ」 取り出された小瓶をもぎ取るようにして雑多なポケットへ放り込み、自分でやりますと丁重に断りを入れまだ何か言いたげな皇から立ち去った。(増長+皇)
「良いものなんですか」 締めるという感覚は。落陽の逆光に映し出された影法師、襟首を搦め捕るように掴む右手に吊された陰が問うた。「良いですよ。悲壮が困惑、絶望へ混濁していく表情というのは」「そう思っているのを見下ろさせて頂くのも、悪く」 途切れた言葉は、白む程に首筋を押し上げる左手によって掠れた吐息へと変えられた。 (皇+増長)
持ち込まれたのは小さな鉢。花壇の土を入れただけらしく、砂利の混じった表層には雑草が繁茂している。「詰草ですか、三つ葉ばかり」「ラッキークローバーは踏まれる場所にしかないそうですから」「裂傷奇形によるものですね。よくご存じで」 四つ葉には富、名声、愛情、健康の意。先生には全く似合いませんのでと嘯く彼女は、さて花言葉まで知っているのだろうかと一人ごちた。(増長+皇)
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地味に増えてきたので五本刻みに纏めました。相変わらず敬称略でキャラをお借りしてます
教室の片隅、放置された段ボール箱の陰に身を隠す少女が居た。「いいい今中さんッ おっ追われてるんで匿ってくださいっ」「うわああああ何奴!? と言うか誰に?」「銀さんに」「何したの」「酒の携帯がバレた」「‥‥‥」「や、製菓用なんすけどね」 痛い沈黙の中、静かに教室の後ろ扉が開かれた。 (増長+今中)
どうぞ、と差し出されたのは小さな飴玉。丸い粒からはほのかに花の香りと柔らかな甘さが広がった。目は醒めましたか?と微笑むその人は、暗いお天気なのにとても楽しそうに飴のひとつを口に含む。帰るまでにはこの雨も止む、きっと。きらきら光る空色のつつみ紙を、わたしはそっとポケットに仕舞った。 (夜臼+増長)
「何聴いてるんすか」「本部との連絡。教える訳にはいきません」「音、洩れてます」 驚いた様子で指し示した左耳を押さえた少女は、ややあって降伏のつもりかイヤホンの片方を差し出す。「‥‥今月出た新譜」「良いですよね、あれ」 窓際に二人、一つのプレーヤーを挟んで佇む。始業まで、あと五分。 (増長+今中)
伏せた耳を避け優しく撫でてやる。その指が逡巡し、ついと髪の幾束かを掬う。 「(良い、匂いだ)」 気付かれないよう静かな口付けを落とした瞬間、大きな目がこちらを向き――頬に何かが触れた。 「えへへ‥‥お返し」 ね、と小首を傾げた彼女に、増長は苦笑してまた頭に手を乗せた。 (増長+夜臼)
ほんの手慰みに作ってみただけの玩具。せいぜい気でも惹ければいいと持参したそれのあどけない表情が、こちらを笑っているように見えてささいな欲心が首をもたげた。ただ向かうのではつまらない。余計なことを試すのは信条で、その柔らかな笑顔が見えない背後に歩み寄り隠された左手でカウントダウンを始めた。 (増長+夜臼)
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TWITTERに流した小文まとめ。敬称略であちこちからキャラを借りさせて頂いてます。